大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和60年(行ウ)29号 判決 1988年2月23日

京都府亀岡市古世町石塚一二五番地

原告

石野文夫

右訴訟代理人弁護士

高田良爾

京都府船井郡園部町小山東町溝辺二一番地二

被告

園部税務署長

森辰夫

右指定代理人

佐藤明

田辺澄子

三好正幸

戸根義道

足立譲

藤島満

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、昭和五九年二月二日付で原告に対してした原告の昭和五五年分ないし昭和五七年分(以下、本件係争年分という。)の所得税更正処分(以下、本件更正処分という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、本件決定処分という。)を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、京都府亀岡市篠町柏原町頭四五において、石野商店の屋号で酒類及びたばこの販売業を営む白色申告納税者である。

2  原告が本件係争年分の所得税の確定申告をしたところ、被告は昭和五九年二月二日原告に対し、本件更正処分及び本件決定処分をした。

原告は、被告に対する異議申立及び国税不服審判所長に対する審査請求をしたが、その経緯と内容は別表1記載のとおりである。

3  本件更正処分及び本件決定処分には、次の違法事由がある。

(一) 被告は、原告の税務調査に際し、原告が求めた調査理由の開示を行わず、第三者の立会を認めなかつた。

(二) 本件更正処分のうち、確定申告に係る所得金額を超える部分は、いずれも原告の所得を過大に認定したものである。

(三) 右(一)、(二)により、本件更正処分は違法であり、したがつて、これを前提としてされた本件決定処分も違法である。

よつて、原告は、本件更正処分及び本件決定処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2の事実は認めるが、同3の主張は争う。

三  被告の主張

1  被告は、原告の本件係争年分の所得税調査のため、部下職員を原告の事業所に赴かせ、調査を行わせた。

被告の部下職員は、昭和五八年八月二四日原告の事業所に行き、原告の長男である石野明に面接し、原告の本件係争年分の所得税の調査のため原告に面接したいと告げた。しかし、石野明は、原告の所得税の申告関係はすべて自分が行つており、原告は全く関知していない、今日は忙しいから後日来いなどと言つて同職員の調査に応じず、調査の日として同年九月一三日を指定した。そこで、同職員は右指定された日に再び原告の事業所に行き、石野明に面接し、原告の本件係争年分の事業所得金額の計算の基礎となるべき帳簿書類等の提示を求めた。しかし、同人は具体的な調査理由を聞かなければ見せられないと提示を拒否した。同職員は同年一〇月一四日原告の事業所に行き、原告に面接したところ、原告は、商売のいことは全部息子にまかせている、息子の意見は原告の意見と思つてもらつてよいと答えたので、石野明に対し帳簿書類等の提示を求めたが、同人はこれを拒否した。

そこで、被告は、やむを得ず原告の取引先等に対する調査を行い、その結果に基づいて原告の総所得金額を算定したところ、原告の申告額を上回つていたので、本件更正処分及び本件決定処分を行つたものである。

2  原告の本件係争年分の総所得金額は、別表2記載のとおりであるから、いずれもその範囲内でなされた本件更正処分及びこれに対応する本件決定処分に違法はない。

総所得金額の算出根拠は、以下のとおりである。

(一) 酒類等(但し、たばこを除く。以下同じ)の売上原価

原告の本件係争年分の酒類等の仕入金額は、

昭和五五年分 六三三一万六九三八円

昭和五六年分 七三八二万〇二七八円

昭和五七年分 八三六二万四四二七円

であり、その仕入金額の明細は別表3記載のとおりである。

原告の本件係争年分の酒類等のたな卸高は不明であるが、原告の事業内容及び事業規模に著しい変動があつたとは認められないので、本件係争年分の酒類等の売上原価とした。

(二) 酒類等の売上金額

本件係争年分の酒類等の売上金額は、右(一)の売上原価を、別表7の1ないし3記載の同業者の原価率(売上原価の売上金額に対する割合)の平均値(以下、同業者原価率という。)で除して算定したもので、その金額は、

昭和五五年分 七六八〇万三六六〇円

昭和五六年分 八八二九万九一一二円

昭和五七年分 一億〇一一七万八九八〇円

であり、その計算は別表4のとおりである。

(三) たばこの売上金額

原告の本件係争年分の日本専売公社(当時)とのたばこの取引金額(売価ベース)は、

昭和五五年分 一二一一万九七八〇円

昭和五六年分 一三二三万八七〇〇円

昭和五七年分 一二二九万二八〇〇円

である。たばこは定価販売が義務づけられており、酒類等の場合と同様の理由により本件係争年分の期首、期末の各たな卸高を同額と認めて、右取引金額をもつて本件係争年分のたばこの売上金額とした。

(四) たばこの売上原価

原告のたばこの仕入に係る日本専売公社(当時)との決算は、取引金額(売価ベース)の一〇パーセント割引であるから、たばこの原価率は九〇パーセントとなる。

本件係争年分のたばこの売上原価は、右(三)の売上金額に原価率九〇パーセントを乗じて算出し、その金額は、

昭和五五年分 一〇九〇万七八〇二円

昭和五六年分 一一九一万四八三〇円

昭和五七年分 一一〇六万三五二〇円

である。

(五) 酒類等販売に係る一般経費

本件係争年分の酒類等販売に係る一般経費は、前記(二)の売上金額に、別表7の1ないし3記載の同業者の一般経費率(一般経費の売上金額に対する割合)の平均値(以下、同業者一般経費率という。)を乗じて算定したもので、その金額は、

昭和五五年分 四二四万七二四二円

昭和五六年分 四七五万九三二二円

昭和五七年分 五五〇万四一三六円

であり、その計算は別表5のとおりである。

(六) 特別経費

本件係争年分の特別経費の金額は、

昭和五五年分 二六四万六〇〇〇円

昭和五六年分 二七三万二五〇〇円

昭和五七年分 二八〇万円

であり、いずれも雇人費として石野明に支払つた金額である。

(七) 給与所得金額

原告の本件係争年分の給与所得金額は、

昭和五五年分 二五万五五八二円

昭和五六年分 五〇万八六〇七円

昭和五七年分 一一六万六〇〇〇円

であり、その明細は別表6のとおりである。

3  推計の合理性

(一) 大阪国税局長は、原告の納税地を管轄する園部税務署長及びこれに隣接する福知山税務署長に対し、酒類販売業を営む同業者のうちから、本件係争年を通じて次のすべての基準に該当する者を選定するよう通達を発し、これに対する右両税務署長からの回答に基づいて別表7の1ないし3記載のとおり同業者を得た。

(1) 他の事業を兼業していないこと

(2) 所得税の青色申告書を提出していること

(3) 年間を通じて継続して事業を営んでいること

(4) 事業所が自署轄内にあること

(5) 事業専従者がいること

(6) 不服申立又は訴訟継続中でないこと

(7) 売上原価が三二〇〇万円から一億二五〇〇万円までの範囲内であること(被告主張の原告の売上原価を基準とし、その約二倍を上限とし、その約二分の一を下限としたもの)

(二) 右の基準により選定された同業者は、原告と事業内容、事業場所、規模が類似しており、大阪国税局長の通達に基づいて機械的に抽出されたもので、その抽出に当つて恣意の介入する余地はない。

(三) 同業者原価率及び同業者一般経費率は、前記(一)により選定された同業者の提出した青色申告決算書記載の金額に基づいて算定したもので、その金額は正確であるから、右同業者原価率及び同業者一般経費率を原告に適用して事業所得金額を推計するこのには合理性がある。

四  被告の主張に対する認否

1  所得関係について

(一) 酒類等の仕入金額は認め、売上金額は否認する。酒類等販売に係る一般経費は否認する。

(二) たばこの売上原価は認め、売上金額は否認する。

(三) 雇人費、事業専従者控除額、給与所得金額は認める。

2  推計の合理性は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告が京都府亀岡市篠町柏原町頭四五において石野商店の屋号で酒類及びたばこの販売業を営む白色申告納税者であること、原告が本件係争年分の所得税の確定申告をしたこと、被告が原告に対し本件更正処分及び本件決定処分をしたこと、原告は被告に対する異議申立及び国税不服審判所長に対する審査請求をしたこと、その経緯と内容が別表1記載のとおりであること、以上の事実は当事者間に争いがない。

二  原告は、被告が原告の税務調査に際し原告の求めた調査理由の開示を行わず、また第三者の立会を認めなかつたこと本件更正処分及び本件決定処分の違法事由として主張する。

証人石野明及び同角屋弘二の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、被告の部下職員角屋弘二は昭和五十八年八月二四日、同年九月一三日、同年一〇月一四日の三回にわたり原告の本件係争年分の所得金額の調査のため原告の事業所の赴き、原告の長男で原告の事業に従事していた石野明及び原告に面接したこと、角屋弘二は右の面接に際し原告の本件係争年分の申告所得金額が正しいかどうかの確認のため調査に来た旨を告げ、所得金額算定の基礎資料である帳簿、領収書の提示を求めたこと、石野明は具体的な調査理由を開示しなければ調査に応じられないとして帳簿、領収書の提示を拒否したこと、原告も石野明の意見を自分の意見と思つてもらつて結構だと答えて調査に応じなかつたこと、そこで被告は反面調査の結果に基づき本件更正処分及び本件決定処分を行つたこと、以上の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。原告が税務調査に際し第三者の立会を求めたことを認めるに足りる証拠はない。

ところで、税務調査の手続については実定法上特段の定めがないからその実施の細目は権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられているものと解すべきところ、前記認定事実によれば、被告の部下職員角屋弘二は原告の税務調査に当り一応の調査理由を開示しており、それ以上に具体的な調査理由を開示しなかつたことが右の合理的な裁量の範囲を逸脱したものと認めるべき特段の事情の主張立証はないから、調査理由を開示しなかつたことを本件更正処分及び本件決定処分の違法事由とする原告の主張は理由がない。

三  所得金額の算定について

1  原告の本件係争年分の給与所得金額が、

昭和五五年分 二五万五五八二円

昭和五六年分 五〇万八六〇七円

昭和五七年分 一一六万六〇〇〇円

であることは当事者間に争いがない。

2  事業所得について

(一)  原告の本件係争年分の酒類等の仕入金額が、

昭和五五年分 六三三一万六九三八円

昭和五六年分 七三八二万〇二七八円

昭和五七年分 八三六二万四四二七円

でらることは当事者間に争いがない。原告の本件係争年分の酒類等のたな卸高は証拠上明らかでなく、証人石野明の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件係争年を通じて原告の事業内容及び事業規模に著しい変動はなかつたと認められることから、期首、期末の各たな卸高を同額と認め、前記仕入金額をもつて原告の本件係争年分の酒類等の売上原価と認める。

(二)  証人西岡達雄の証言により真正に成立したと認められる乙六ないし八号証及び同証言並びに証人石野明の証言によれば、大阪国税局長は原告の納税地を管轄する園部税務署長及びこれに隣接する福知山税務署長に対し、酒類販売業を営む同業者のうちから、本件係争年を通じて、(1)他の事業を兼業していないこと、(2)所得税の青色申告書を提出していること、(3)年間を通じて継続して事業を営んでいること、(4)事業所が自署管内にあること、(5)事業専従者がいること、(6)不服申立又は訴訟継続中でないこと、(7)売上原価が三二〇〇万円から一億二五〇〇万円までの範囲内であること、右(1)ないし(7)の基準に該当する者を選定するよう通達を発し、これに対する右両税務署長の回答に基づいて別表7の1ないし3記載のとおりの同業者を得たこと、原告は本件係争年当時たばこの販売を除けば主に酒類を販売いていたが、酒類の他にも売上金額全体の一割に満たないもののパン、乳製品なども販売していたこと、一般に店頭で酒類の販売業を営む同業者は酒類の他に食料品、飲料水などの雑品も販売していること、以上の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(三)  右(二)認定事実によれば、別表7の1ないし3記載の同業者は、原告の営む事業のうち酒類等販売業に関して、原告と事業内容、事業場所、規模が類似しいており、大阪国税局長の通達に基づいて選定されたものでその選定に当つて恣意が介入したことを認めるべき証拠はなく、青色申告者であるからその売上金額、売上原価、一般経費の各金額は正確である。

したがつて、右同業者から同業者原価率及び同業者一般経費率を算定し、これを原告に適用して原告の本件係争年分の酒類等の売上金額及び酒類等販売に係る一般経費の金額を推計することには合理性があると言うべきである。

(四)  前記同業者から同業者原価率及び一般経費率を算定すると別表7の1ないしい3記載のとおりとなる。

前記(一)認定の原告の本件係争年分の酒類等の売上原価を同業者原価率で除すると、原告の本件係争年分の酒類等の売上金額は別票4記載のとおり、

昭和五五年分 七六八〇万三六六〇円

昭和五六年分 八八二九万九一一二円

昭和五七年分 一億〇一一七万八九八〇円

となり、右各年分の売上金額に同業者一般経費率を乗ずると、原告の本件係争年分の酒類等販売に係る一般経費は別表5記載のとおり、

昭和五五年分 四二四万七二四二円

昭和五六年分 四七五万九三二二円

昭和五七年分 五五〇万四一三六円

となる。

(五)  原告の本件係争年分の石野明に支払つた雇人費の金額が別票2記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、これ以外に特別経費の支出があるとの主張はない。

(六)  原告の本件係争年分の事業専従者控除額が別表2記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

(七)  弁論の全趣旨によれば、原告の本件係争年分のたばこの売上金額は、たばこの売上原価とたばこ販売に係る一般経費の金額との合計額よりも大きいことが認められる。

(八)  以上判示したところに基づき原告の本件係争年分の事業所得を算定すると、その金額は少なくとも別表8記載のとおり、

昭和五五年分 五七九万三四八〇円

昭和五六年分 七一八万七〇一二円

昭和五七年分 八四五万〇四一七円

となる。

3  したがつて、原告の本件係争年分の総所得金額は少なくとも別表8記載のとおり、

昭和五五年分 六〇四万九〇六二円

昭和五六年分 七六九万五六一九円

昭和五七年分 九六一万六四一七円

となる。

四  以上によれば、本件更正処分及び本件決定処分は、原告の所得の範囲内でなされたものであるから、被告が原告の本件係争年分の所得を過大に認定した違法事由はない。

よつて、その余の点につき判断するまでもなく原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 田中恭介 裁判官 榎戸道也)

別表1

申告・更正等の経過

<省略>

別表2

被告主張の原告の総所得金額

<省略>

別表3

原告の仕入金額

<省略>

注(株)は株式会社を、(名)は合名会社を示す。

別表4

酒類等の売上金額

<省略>

別表5

酒類等販売に係る一般経費

<省略>

別表6

給与所得金額

<省略>

別表7の1

同業者の売上原価率及び一般経費率一覧表

(昭和55年分)

<省略>

別表7の2

同業者の売上原価率及び一般経費率一覧表

(昭和56年分)

<省略>

別表7の3

同業者の売上原価率及び一般経費率一覧表

(昭和57年分)

<省略>

別表8

当裁判所の認定した原告の総所得金額

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例